イタリア自動車雑貨店
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第7回 春の予感

クリスティーナがヴェネツィアの大学に入学して家を離れたので、1台クルマが余っていた。彼女がトリノの家に帰ってくるのは、長い休みを除けばせいぜい月1回。
「月1回だから・・・。」
何かを考えている時に必ずそうするように、知人のロベルトさんはその時も眉間に皺を寄せて、それから言った。いつものイタリア訛りの英語で。
「カズ(僕のことだ)、君が使いたまえ。君がイタリアにいる間はこのクルマは君のものだ」。
クリスティーナの父親のロベルトさんの鷹揚な一言で、僕とY10の付き合いが始まった。今から2年近く前のことだった。

レンタカーの借りたり返したりの手続きの煩わしさがなくなった分だけ、僕のフットワークはぐっと軽くなった。小さなボディはクルマで溢れるトリノ市街では特に重宝した。このクルマでトリノはもちろん北イタリアの主だった都市の道が、少しずつ自分のものになっていった。
路上に駐車するときのイロハ、一方通行がある日突然に逆方向の一方通行になるイタリアのドラスチックな交通行政、ドライバーの裁量に大きく委ねられた実に合理的かつ柔軟な路上のルール、本気でやってる(ように見える)No Car Day、などなど、みんなみんなこのクルマとともに知った。Y10は僕の先生であった。


ところが・・・。
いいことばかりではもちろんなかった。なによりこのクルマは古かったのだ。驚くことに、今はもう絶滅寸前の有鉛ガソリン仕様である。必殺鉛入り。エンジンをかけたままクルマの後ろに立っていると、目にしみるような懐かしい自動車の匂いがした。ガソリンスタンドでは緑の印の 機械では給油するな、と最初ロベルトさんに何度も念を押された。緑は無鉛のシンボルカラー。有鉛は赤だ。危険、身体に悪い、そういう悪役のイメージ。


  それに加えて、言ってみればこいつは正真正銘のポンコツだった。
まず、リアシートを前に倒すと小さいながらもラゲッジスペースが現れる。これはいい。積載物の多い僕にとっては何よりありがたかった。でも、逆にシートバックを戻そうとすると、固定キャッチが壊れていてグラグラの状態、走行中はいつもカタンコトンと揺れていた。
エアコンやクーラーの類はもちろんなかったけれど、これでもかとばかりにヒーターの温度調整レバーまで壊れていて、温風はついぞ吹き出すことはなかった。だから、真冬のアウトストラーダはオーバー着用の重装備で臨んだ。
右側にドアミラーが付いていない純血ヨーロッパ仕様はある意味カッコ良かったけど、やっぱり不便で、MONZAのスーパーマーケットで見つけて装着した。なのに、なのに、それもつかの間、うまいんだが下手なのか判断のつきかねる運転をするクリスティーナが、すぐさまミラーをぶつけてバラバラに壊してしまった。


クリスティーナといえば、ウィンカーレバーを根元付近で折るという暴挙に出たのも彼女だ。
今年21歳、繊細で感受性豊か、そしてとてもスレンダーな若き乙女だが、きっと僕の知らない隠された一面 を持ってるんだろう。
それにしても、クリスティーナ、ふつうウィンカーレバーは折らないものだぜ。何故、折った? コラムシフトと間違えたのか? 折れた先の方は何処にやったんだよ。
彼女は慎ましやかに微笑むばかりだった。
おかげで僕は難儀したものだ。このレバーは、それを回転させることによってライトのオン・オフのスイッチも兼ねていたから、短過ぎるそれでは指の先に力が入らずなかなか回ろうとしないのだ。それでもこれは、息を止めて一気に力を加えるというコツを会得したから、最近は随分スムーズにスイッチを入れたり切ったりができるようになってはいたけれど。
それにしてもね、ライトのスイッチのオン・オフのたびに、息を止めていたんだ、ワタシは。


こういうクルマに僕はフェラーリのひとつ何万円もするアクセサリーを満載して疾走(?)していたのだ。郷愁のチョークレバーを装備し、ポーランド、イタリア、フランス産の4本バラバラの銘柄のタイヤをなんのてらいもなく履きこなし、どういうわけかリアバンパーの裏側からアンテナ(!)を吊り下げていたこのY10の車内は、実は宝箱だったんだぜ、なんて自慢にもならないけど、このポンコツに乗る僕にはそれが唯一の慰めといえば慰めだった。


  こんなふうに、あれやこれや、このY10ではいろんなことがあったけど、イタリアでの僕にとっては唯一無二の足、ほんとによく頑張ってくれた。ありがとうY10! ポンコツだけど君は素晴らしかったよ。
という称賛を贈っておいてこんなこと言うのもなんだけど、一転、僕はこのクルマと別 れることにした。何故って、もうイヤなのだ。つくづくイヤになった。あんたの箸の上げ下ろしもイヤ!
リアシートはいつだって揺れてるし、右側のミラーは粉々だし、ライトのスイッチを入れるのに力やコツが必要だし、アウトストラーダではいじめられっぱなし。ああ、そんなのもうイヤ!満タンにして走ると、ガソリンが噴き出すのもイヤ!それになんといっても、冬が寒過ぎるじゃないか。オーバーなんか着こんで運転してるヤツなんてモスクワにだっていない。そのオーバーにも犬の毛がびっしりつくのだ。犬なんか乗せるな、クリスティーナ!ヤダ、ヤダ。有鉛、ポンコツのY10なんてもうたくさんだ!


で、クルマを買い替える、というか、クルマを買うことにした。とうとう春がやって来た。新車、エアコン付、ついでにパワーウィンドウ、集中ドアロック、パワーステアリングがついて、おまけにラジオ付。そういうクルマを買うことにした。なんていうクルマ? それは次回のお楽しみ。
本当のこと言うと、これを買うにあたってもイロイロあった。ロベルトさんがらみでなかなか思うようにならないのだ。「Y10があるじゃないか」に始まって、もうイロイロ。このあたりの顛末も次回。
そうそう、この原稿がUPされている頃には、きっとそのクルマで僕は颯爽とイタリアを走り回っているはずだ。う〜ん、楽しみ、う〜ん、しあわせ。
さらば、Y10! また逢おうぜ!




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